個人事業主から法人化するタイミングは?顧問税理士と一緒に考えるメリット
「売上も増えてきたし、そろそろ法人にした方がいいでしょうか?」
個人事業主のお客様から、このようなご相談をいただくことがあります。
反対に、私の方から毎月・毎年の数字を見ていて、
「そろそろ法人化を検討してもいいタイミングかもしれませんね」
とお話しすることもあります。
特に、これからさらに売上を伸ばしたい、従業員を増やしたい、事業規模を大きくしていきたいと考えている個人事業主の方にとって、法人化は一度は検討することになるテーマだと思います。
ただ、法人化は「利益が○○万円を超えたから法人にしましょう」と単純に決められるものではありません。
税金や社会保険料のことはもちろん、今後の売上の伸び方、事業の安定性、従業員を雇う予定、生活に必要なお金、さらには事業主ご本人の性格などによっても、法人化した方がよいタイミングは変わってきます。
今回は、普段から個人事業主のお客様の顧問をしている税理士の立場から、
- どのくらいの利益が出たら法人化を考えるのか
- 法人化するかどうかを判断するときに何を見るのか
- 個人事業主の頃から顧問税理士がいると何が違うのか
- 実際に法人を設立するときに税理士は何をするのか
- 司法書士に依頼せず自分で会社を設立する場合はどうするのか
といった点について、実際の顧問業務を踏まえて書いてみたいと思います。
法人化を考える一つの目安は「課税される所得800万円前後」
法人化を検討するタイミングについて、「売上がいくらになったら法人化すればいいですか?」と聞かれることがあります。
この点、私は売上だけで判断することはありません。売上が同じでも業種によって残る利益は全く異なってくるからです。
一つの目安として見ているのは、売上ではなく個人事業主としての課税される所得が800万円前後になっているかどうかです。
所得税は所得が増えるほど税率が上がっていく累進課税です。
そのため、ある程度所得が大きくなってくると、個人事業主として所得税・住民税・個人事業税などを負担する場合と、法人を設立して役員報酬と法人の利益に分ける場合とを比較する意味が大きくなってきます。
ただし、
「課税所得が800万円を超えた=法人化した方がいい」
という話ではありません。
ここはとても大切です。
例えば、今年だけたまたま大きな仕事が入って課税所得が800万円になった方と、2年連続で800万円を超えていて、さらに売上も毎年伸びている方では、法人化についての判断はまったく違います。
私の場合は、
- 今年だけ利益が大きく出たのか
- ここ数年継続して利益が出ているのか
- 売上はどのくらいのペースで伸びているのか
- 何が売上増加の要因になっているのか
- 来年以降も同じ利益水準を維持できそうか
といったところまで見ながら、法人化のタイミングを考えています。
その結果、「今すぐ法人化しましょう」というより、
「このペースなら、そろそろ法人化を考えてもいいタイミングかもしれませんね」
というお話をすることが多いです。
税金とは関係なく法人化した方がいい場合もある
一方で、利益水準とは関係なく法人化した方がよいケースもあります。
例えば、
「新しい取引先と契約するためには法人である必要がある」
という場合です。
これから大きな取引が始まるにもかかわらず、「まだ税金面では法人化のメリットが小さいから個人事業主のままにしましょう」というのでは、本末転倒になってしまいます。
従業員を増やし、これから事業を大きくしていきたい場合にも、法人化を検討する意味があります。
つまり、法人化は単なる節税対策ではありません。
これからどのように事業を大きくしていきたいのか。
これも法人化を考えるうえで非常に重要です。
そのため、お客様から「法人にしたいです」と相談された場合には、まず、
「なぜ法人にしたいと思ったのですか?」
というところからお話を聞くようにしています。
法人化は税金だけ比較して決めるものではありません
もちろん、法人化を検討するときには税金の比較も行います。
当事務所では、現在の個人事業の数字をもとに、
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 社会保険料
- 法人税等
などを見ながら、個人事業主のままの場合と法人化した場合を比較します。
法人化した場合については、役員報酬をいくらに設定するかによっても結果が変わるため、役員報酬を2~3パターン程度設定して概算を比較することもあります。
ただ、ここでも、
「税金が年間○万円安くなるから法人化しましょう」
とは考えていません。
法人になると、個人事業主のとき以上に法人と個人のお金を明確に分けて管理する必要があります。
また、法人化後には社会保険、法人税の申告、各種届出など、個人事業主のときとは異なる管理や手続きも必要になります。
そのため、
- 今後の利益は安定しているか
- これから事業を拡大していきたいのか
- 従業員を雇う予定があるか
- 毎月生活費としてどのくらいのお金が必要か
- 法人と個人のお金をきちんと分けて管理できそうか
- 法人として少し細かい管理をすることが本人の性格に合っているか
といったことも含めて判断します。
実際、ある程度利益が出ているお客様であっても、
「今はまだ個人事業主のままでいいと思います」
とお話しすることもあります。
利益が不安定だったり、今後売上が下がる可能性が高かったり、法人にしたことによる管理負担の増加がご本人に合わなさそうだったりする場合です。
法人化すること自体が目的ではありません。
その方が事業を続けていくうえで、個人事業主と法人のどちらが合っているのかを考えることが大切だと思っています。
個人事業主の頃から顧問をしていると、法人化のアドバイスは大きく変わる
今回この記事を書こうと思った理由の一つが、まさにこの部分です。
現在、当事務所でも個人事業主として顧問契約をいただいているお客様のうち、複数のお客様について法人化に向けた準備を進めています。
その中で改めて感じているのが、
個人事業主の頃から継続して顧問しているお客様は、法人化について非常にアドバイスがしやすい
ということです。
法人化の直前になってお申込みをいただき、初回面談で初めてお話を聞く場合でも、確定申告書や決算書、直近の試算表などを見れば、ある程度のシミュレーションはできます。
ただ、それまで何年も顧問してきたお客様とは、持っている情報量がまったく違います。
毎年の数字を見ていますから、
「去年だけたまたま売上が増えた」
のか、
「この商品やサービスが伸びていて、今後も売上が増えていきそう」
なのかも分かります。
どのような経費が毎年発生しているのかも分かりますし、どこが売上を伸ばすドライバーになっているのかについても、お客様とある程度共有できています。
そして、数字だけではありません。
長くお付き合いしていれば、その方の性格や考え方も分かってきます。
事業をどこまで大きくしたいのか。
従業員を増やしたいのか。
今の規模で無理なく仕事を続けたいのか。
数字の管理が得意な方なのか。
生活にどのくらいのお金が必要なのか。
こうしたことも分かったうえで法人化を検討できます。
言い換えれば、
数字を知っているだけではなく、「なぜその数字になっているのか」まで知っている。
ここは非常に大きな違いだと思います。
また、お客様側からしても、今までずっと相談してきた税理士であれば、
「実は今後こういう仕事を増やしたい」
「従業員を雇おうか迷っている」
「法人にするとお金を自由に使えなくなりそうで少し不安」
といったことも気軽に本音で話しやすいと思います。
法人化だけを切り取って相談するのと、事業の成長過程を一緒に見ながら法人化を考えるのとでは、アドバイスの内容はかなり変わります。
法人設立を司法書士に「お願いして終わり」にはしていません
法人化することが決まったら、次は実際の会社設立です。
会社・法人の登記手続の代理や、法務局に提出する登記関係書類の作成などは司法書士の専門業務です。
そのため、お客様がご自身で会社設立の手続きを行わない場合には、司法書士に依頼して進めることになります。
弊所でも希望のある場合には、提携している司法書士の先生をご紹介していますが、当事務所では司法書士をご紹介して、
「あとはお客様と司法書士で進めてください」
という形にはしていません。
例えば、提携先の司法書士であれば最初のWeb面談には、基本的に私も同席します。
お客様、司法書士、税理士の3者で話をして、設立に向けてスムーズに進められるようにしています。
その後のメールについてもCCに入れていただくなど、現在どこまで進んでいるのかを把握するようにしています。
登記や法務の専門的な部分については司法書士に判断していただきます。
一方、税理士として、
- 資本金をいくらにするか
- 決算月をいつにするか
- 事業年度をいつからいつまでにするか
- 株主・役員構成を踏まえて税務上注意することはないか
- 消費税上注意することはないか
といった税務・会計に関係する部分は、設立前からお客様と相談しながら進めます。
事業目的など登記・法務に関係する事項についてお客様から相談を受けた場合にも、今後予定している事業などを共有したうえで、必要な事項は司法書士に確認してもらいながら進めます。
司法書士と税理士の仕事を混同するのではなく、それぞれの専門分野を担当しながら、
法人設立全体の流れは税理士側でも把握し、お客様が「次に何をすればいいのか分からない」という状態にならないようにする。
これを大切にしています。
司法書士に依頼せず、自分で会社設立する方法もあります
一方で、すべてのお客様が司法書士に会社設立を依頼するわけではありません。
費用をできるだけ抑えたい方もいらっしゃいますし、
「せっかく自分の会社を作るのだから、会社設立の手続きも一度自分でやってみたい」
という方もいらっしゃいます。
最近では、会社設立を自分で進めるためのサービスもあります。
代表的なものとして、
- 弥生のかんたん会社設立
- freee会社設立
などがあります。
「弥生のかんたん会社設立」は、会社設立に必要な情報を入力していくことで、定款や会社設立に必要な書類の作成、オンラインでの登記申請などを進められるサービスです。
「freee会社設立」も、株式会社・合同会社の設立に必要な定款や登記関係書類を作成し、案内に沿って会社設立を進められるサービスです。
こうしたサービスを利用し、ご本人が自分で会社設立の手続きを進めることもできます。
自分で手続きを進めるため、費用を抑えることができるメリットがあります。
当事務所でも、
「司法書士にお願いした方がいいですか?」
「自分で設立しても大丈夫でしょうか?」
と相談されることがあります。
私は、すべての方が必ず司法書士に依頼しなければならないとは考えていません。
その方の性格や考え方、費用面なども踏まえて決めればよいと思っています。
例えば、
「手続きは専門家に任せて、自分は本業に集中したい」
という方であれば、司法書士に依頼するメリットは大きいでしょう。
一方で、
「自分で調べたり手続きをしたりすることが苦にならない」
「一度、自分の会社がどうやってできるのか経験してみたい」
という方であれば、弥生のかんたん会社設立やfreee会社設立などを利用し、自分で手続きを進める方法も選択肢になると思います。
自分で会社設立する場合も、税務面からできる限りサポートします
ご自身で会社設立をする場合でも、当事務所では、
「では、ご自身ですべてやってください」
ということにはしていません。
例えば、
- 資本金をいくらにするか
- 決算月をいつにするか
- 事業年度をどう設定するか
- 役員報酬をいくらにするか
- 消費税について注意すべき点はないか
- 個人事業から法人へ何を引き継ぐか
といった税務・会計に関する部分については、ご自身で会社設立をする場合でも一緒に考えます。
また、
「今は設立手続きのどのあたりなのか」
「税務関係では次に何を準備しておいた方がいいのか」
といった、法人設立から事業開始までの全体的な流れについても、税理士として対応できる範囲でサポートします。
(一方で、登記申請書類の作成や、個別具体的な登記・法務上の判断については司法書士の専門分野ですので、こういったことのサポートが必要な場合には提携の司法書士をご紹介することになります。)
司法書士に依頼して設立する場合でも、自分で設立する場合でも、税務面からできるだけスムーズに法人としてスタートできるようサポートするという点は変わりません。
「いつ会社を作るか」「何月決算にするか」も大切です
法人を設立するときには、会社の名前や所在地だけでなく、
「いつ会社を設立するのか」
「何月決算にするのか」
についても考える必要があります。
決算月については、お客様の事業の繁忙期などを考慮します。
例えば、一年で最も忙しい時期と決算作業が重なってしまうと、お客様自身の負担も大きくなります。
また、新しく顧問契約をするお客様には、税理士業界の繁忙期についてもお話ししたうえで、可能であればそこを避けて決算月を設定することもおすすめしています。
さらに、その時点の税制によっては、会社の設立時期や事業年度が税負担に影響することもあります。
2026年でいえば、インボイス制度の「2割特例」もその一つです。
2割特例は、一定の要件を満たすインボイス発行事業者について、2026年9月30日までの日の属する課税期間までが適用対象です。
法人の場合、通常は事業年度が消費税の課税期間となるため、法人化する時期や事業年度の設定によって適用関係が変わる可能性があります。
例えば、2026年9月中に設立した法人と10月以降に設立した法人では、最初の事業年度について2割特例の適用関係が変わることがあるということです。
そのため、2026年に法人化するお客様については、この点も確認しながら設立時期や事業年度についてアドバイスしています。
法人設立日は、
「なんとなく月初がいいから」
「キリのいい日だから」
という理由だけで決めるのではなく、消費税を含めた税務上の影響も確認したうえで決めた方がよい場合があります。
※上記は2026年8月現在の制度に基づいています。実際の適用可否は、個々の状況によって異なります。
会社ができたら法人化が終わるわけではありません
無事に会社の登記が終わっても、それで法人化の手続きがすべて終わるわけではありません。
会社設立後には、税務署や都道府県、市町村などへの各種届出が必要です。
当事務所では、顧問契約を頂いている場合には、税理士が対応できる税務関係の届出については、基本的にこちらで対応しています。
また、役員報酬をいくらに設定するのかについても、法人設立前のシミュレーションを踏まえて一緒に決めていきます。
役員報酬は設立後にいつでも自由に増減できるものではないため、税負担だけでなく、法人に残したい資金や毎月必要な生活費も考えながら設定することが大切です。
そして、もう一つ大切なのが、
個人事業から法人へ実際の事業をどう引き継ぐか
です。
例えば、
- 個人事業で発生している売掛金をどうするか
- 買掛金をどうするか
- 個人事業で使っていた車をどうするか
- パソコンなどの固定資産をどうするか
- 在庫をどうするか
- 各種契約を法人へ変更するか
など、考えることはたくさんあります。
個人事業を廃業して法人を設立すれば、自動的にすべてが法人へ移るわけではありません。
何を法人へ引き継ぎ、何を個人に残すのかを一つずつ整理していく必要があります。
ここについても、個人事業主の頃から顧問していれば、どのような資産や取引があるのかをすでに把握しているため、比較的スムーズに進めることができます。
継続して顧問しているお客様の法人化相談は、現在は追加料金をいただいていません
当事務所では、個人事業主として継続的に顧問契約をいただき、決算・確定申告までお付き合いしているお客様については、現時点では法人化の相談について原則として別途料金をいただいていません。
例えば、
- 法人化するかどうかの相談
- 個人事業と法人の税負担の概算比較
- 役員報酬のシミュレーション
- 法人設立時期や決算月の相談
- 司法書士とのWeb面談への同席
- 設立に向けた税務面からのアドバイス
- ご自身で会社を設立する場合の税務面での相談
などについては、基本的に個人事業主としての顧問契約の中で対応しています。
もちろん、法人設立後は法人向けの顧問料・決算料へ変更となります。
また、これは、
「法人化する直前に顧問契約をすれば、すべての設立サポートが含まれる」
という趣旨ではありません。
法人化について深くアドバイスできるのは、それまでの決算・確定申告を含めて継続的にお付き合いし、事業の内容や数字を把握しているからこそです。
顧問契約を始めてまだ数か月という場合には、把握できている情報も限られるため、対応できる範囲は変わってきます。
※もちろん、その場合でも法人化についてのご相談には対応します。
これから事業を大きくしていきたい個人事業主の方へ
法人化について調べると、
「所得が○万円を超えたら法人化」
「売上1,000万円が法人化の目安」
といった情報を目にすることが多いと思います。
もちろん、こうした数字も参考にはなります。
ただ、実際に顧問先のお客様の法人化を一緒に進めていると、法人化はそれほど単純なものではないと感じます。
同じ800万円の所得でも、売上が急成長している方と、一時的に利益が増えただけの方では判断が違います。
今後従業員を増やして会社を大きくしたい方と、一人で無理なく仕事を続けたい方でも違います。
税金だけでなく、その方がこれからどういう事業を作っていきたいのかまで考える必要があります。
そして、法人化することを決めた後にも、
設立時期、決算月、資本金、役員報酬、消費税、司法書士とのやり取り、設立後の税務届出、個人事業から法人への資産や取引の引継ぎなど、さまざまな検討事項があります。
司法書士に設立を依頼するのか、弥生のかんたん会社設立やfreee会社設立などを利用して自分で手続きをするのかについても、その方によって合う方法は違います。
だからこそ私は、
法人化する瞬間だけを見るのではなく、法人化する前から事業を見ていることに意味がある
と考えています。
今すぐ法人にするべきなのか。
もう1年、2年と個人事業主として事業を伸ばした方がいいのか。
まだ法人化するかどうかも決まっていない段階から、一緒に考えていくことができます。
これから売上を伸ばし、事業を大きくしていきたい個人事業主の方で、法人化についても将来的に考えている方は、お気軽にご相談ください。
法人化を検討している方はもちろん、
「まだ法人化するほどではないけれど、今後に向けて税理士と継続的に相談できる関係を作りたい」
という個人事業主の方からのご相談もお待ちしています。

