食事補助(ランチ補助)は月7,500円まで非課税?小さな会計事務所で実際に導入してみました
こんにちは、後藤会計事務所の後藤です。
このブログでは、日々のご相談で多いテーマや、個人事業主・会社経営者の方からよくいただく不安や疑問を、できるだけわかりやすく整理してお伝えしています。
今回は人材不足や人材の定着に不安を持つ小規模企業や個人事業主にぜひ検討してほしい「食事補助」に関する記事になります。
さて、2026年4月1日から、使用者(事業者)が役員や従業員に提供する昼食(ランチ)について、所得税が課税されない使用者(事業者)負担額の上限が、月額3,500円から月額7,500円に引き上げられました。
改正後の月額7,500円という限度額は、2026年4月1日以後に支給する食事から適用されます。
参考:国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」
月額3500円というのは昭和59年から約40年も据え置きでしたが、今回の改正によって7,500円まで大幅に増加したことで、ようやく物価水準に追いつき現場で使える制度になったと思います。
当事務所でも、この改正をきっかけに、従業員に対する食事補助制度を導入しました。
今回は、食事補助を非課税で導入するための重要なポイントと、小さな会計事務所で実際に導入している制度の内容、運用して感じたメリットや注意点について説明します。
食事補助を導入するメリット
食事補助の大きな特徴は、一定の要件を満たすことで、単に同額の現金給与を支給する場合よりも、使用者(事業者)と従業員の双方にメリットが生じることです。
ざっくり言ってしまうと、・事業者としては給与アップよりもコストを抑えながら従業員へ還元できる(採用力・定着率・組織力の向上)、・従業員としては税金により手取りが減ることなく給与アップと同じような効果が得られる ということです。
具体的には事業者側では、事業者が実際に負担した食事代を「福利厚生費」として処理できます。また、外部の飲食店や小売店から食事を購入して提供する場合、事業者負担部分は原則として消費税の課税仕入れになります。
下記の従業員の箇所で記載する通り、支給の金額にはよりますが、多くのケースで事業者側の社会保険料の負担も増加しないため給与をアップするよりもコストがかからないことがメリットです。
また、「給与のベースとして時給を上げるのはなかなか経営のことを考えると難しい・・」と二の足を踏んでいる場合でも、給与アップよりハードルを低く還元できるというメリットもあります。
一方の従業員側では、本人が食事価額の半分以上を負担し、事業者負担額が月額税抜7,500円以下であれば、食事補助について所得税・住民税が課税されません。
さらに、社会保険についても、本人負担額が厚生労働大臣の定める現物給与価額(都道府県により異なりますが大体一食当たり290円程度)の3分の2以上であれば、現物による食事の供与はなかったものとして取り扱われ、標準報酬月額に加算されません。
つまり大体従業員負担が一食200円以上なら基準を満たすことになります。
参考:全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)
例えば、月額7,500円、年間9万円を現金給与として支給すれば、その金額は与収入に含まれ所得税・住民税の課税対象となり社会保険にも影響します。これに対し、要件を満たす食事補助であれば、年間9万円相当を従業員へ還元しながら、所得税や社会保険上の収入を増やさずに済むということです。
それに、給与を増額することも重要ですが、社会保険上の扶養の範囲内で働きたい従業員にとっては、給与額だけを増やすことが必ずしも希望に沿うとは限りません。食事補助は、給与とは別の形で日々の生活を支え、事業者の「従業員へ還元したい」という意図も伝えやすい制度です。
食事補助を導入するときの7つの重要ポイント
ポイント① 役員・従業員が食事代の半分以上を負担する
使用者(事業者)が役員や従業員に支給した食事を、所得税上の給与として課税しないためには、まず役員・従業員が食事の価額の半分以上を負担する必要があります。
国税庁が示している非課税要件は、次の2つです。
- 役員や従業員が、食事の価額の半分以上を負担していること
- 食事の価額から役員や従業員の負担額を差し引いた事業者負担額が、1か月当たり税抜7,500円以下であること
この2つを両方満たした場合に、事業者が負担した食事代について、給与として課税しない取扱いが認められます。
例えば、1か月の食事代の合計額が15,000円で、
- 役員・従業員の負担額:7,500円
- 事業者の負担額:7,500円
であれば、役員・従業員が食事代の半分を負担していることになります。
一方、食事代の合計額が12,000円で、
- 役員・従業員の負担額:4,500円
- 事業者の負担額:7,500円
であれば、役員・従業員の負担額が食事代の半分未満なので、事業者負担額が7,500円以下であっても非課税要件を満たしません。
50%要件は一食ごとに判定するのか
国税庁の公表資料では、事業者負担額が7,500円以下であるかどうかは、明確に「1か月当たり」で判定するとされています。
一方、役員・従業員が食事価額の50%以上を負担する要件については、「一食ごとに判定する」とまでは明記されていません。
そのため、月間の食事価額と本人負担額を合計して、月単位で50%以上かどうかを判定する考え方もあり得ます。
ただし、日によって本人負担割合が大きく異なるような運用は制度が分かりにくくなります。
当事務所では、制度を明確にし、税務上も安全に運用するため、原則として一食ごとに従業員が食事代の半分以上を負担することにしています。
ポイント② 事業者負担額を月額税抜7,500円以下にする
月額7,500円というのは、食事代の合計額ではありません。
食事代から役員・従業員が実際に負担した金額を差し引いた、事業者の実質的な負担額の上限です。
また、7,500円以下であるかどうかは、消費税と地方消費税を除いた税抜金額で判定します。
持ち帰りの弁当や飲食料品には軽減税率の8%、店内飲食には標準税率の10%が適用されるため、限度額を正確に判定する場合には、それぞれを区分して税抜金額を計算する必要があります。
要件を一つでも満たさないと、事業者負担額の全額が給与課税に
次の2つの要件のどちらか一方でも満たさない場合には、非課税限度額を超えた部分だけが給与課税されるわけではありません。
食事価額から役員・従業員が実際に負担した金額を差し引いた残額、つまり、事業者負担額の全額が給与として課税されます。
例えば、食事の価額が13,000円、従業員負担額が6,000円、事業者負担額が7,000円の場合、事業者負担額は7,500円以下です。
しかし、従業員負担額6,000円は、食事価額13,000円の半分未満です。
この場合、50%要件を満たさないため、事業者負担額7,000円の全額が給与課税されます。
また、国税庁の計算例では、事業者負担額が税込9,000円、税抜8,290円となった場合、7,500円を超えた790円だけではなく、事業者負担額である税込9,000円の全額が給与課税の対象とされています。
したがって、限度額ぎりぎりまで利用するより、多少余裕を持った上限を設定した方が安全です。
なお、「事業者負担額の全額が給与課税される」というのは、役員・従業員に対する非課税扱いが認められないという意味です。
ポイント③ 福利厚生として公平に利用できる制度にする
食事補助の非課税要件には、「全従業員へ必ず同額を支給すること」と明記されているわけではありません。
ただし、福利厚生制度として導入する以上、一部の役員や従業員だけを合理的な理由なく優遇するのではなく、対象者が共通の基準で公平に利用できる制度にすることが重要です。
国税庁は、カフェテリアプランに関する質疑応答事例において、企業の福利厚生費として課税されない経済的利益とするためには、役員・従業員にとって均等なものでなければならないと説明しています。
また、職務上の地位や報酬額に比例して利用できるポイントを増やす制度については、福利厚生ではなく給与として課税する取扱いを示しています。
参考:国税庁「カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合」
もっとも、「公平」や「均等」とは、すべての役員・従業員が毎月まったく同じ金額の補助を受けなければならない、という意味ではないと考えます。
重要なのは、職位、給与額、経営者との関係などによって恣意的に差を設けず、同じ条件に該当する人が、同じ基準で制度を利用できることです。
例えば、勤務日だけを対象とし、勤務日1日につき同じ金額を上限とする制度であれば、勤務日数によって月間の利用額に差が生じても、客観的で合理的な基準による差と説明しやすくなります。
ポイント④ 誰が食事補助を利用できるのか
国税庁の食事補助の取扱いは、使用者が「役員又は使用人」に食事を支給する場合を対象としています。
そのため、法人の場合には、一般の従業員だけでなく、代表取締役などの役員も食事補助の対象になり得ます。
役員についても、
- 本人が食事価額の半分以上を負担する
- 法人の負担額が月額税抜7,500円以下である
という要件を満たす必要があります。
ただし、役員だけを対象とし、同じ職場で働く従業員には制度を利用させないなど、役員だけを恣意的に優遇する制度は、福利厚生としての公平性に疑問が生じます。
法人で役員を対象に含める場合にも、役員と従業員を通じて合理的な共通基準を設け、規程に明記しておく方がよいでしょう。
個人事業主本人は利用できない
個人事業主が食事補助制度を導入する場合、対象にできるのは、原則として雇用している従業員です。
個人事業主本人は、自分自身に対してこの食事補助制度を利用することはできません。
国税庁の取扱いは、使用者から食事の支給を受ける役員または従業員を対象としており、個人事業主本人は、自分自身の役員でも従業員でもないためです。
また、個人事業主本人の通常の昼食代は、事業をしていなくても発生する個人的な生活費です。
したがって、個人事業主が従業員の昼食代を補助して福利厚生費として処理していても、個人事業主本人の通常の昼食代を同じ制度で必要経費にすることはできません。
事業用の小口現金から個人事業主本人の通常の昼食代を支払った場合には、原則として事業主貸で処理することになります。
ポイント⑤ 現金で食事代を支給すると原則として給与課税になる
食事補助で最も注意したいのが、現物支給と現金による支給の扱いの違いです。
お弁当や食事の現物支給は「福利厚生」、現金支給や振込での支給は「給与」として課税という違いが出てきます。
国税庁の質疑応答事例には、次のようなケースが掲載されており、このケースでは全額が給与対象と説明されています。
このケースの要点を箇条書きにすると以下の通りです。一見すると食事補助として成立しそうに見えますが、給与として課税されるケースとなっています。
- 従業員が会社指定の飲食店で昼食を取る
- 従業員が食事代を支払い、領収書を受け取る
- 会社が利用日、食事内容、金額を確認する
- 会社が食事代の50%相当額を個人別に集計する
- 会社が補助額を従業員の預金口座へ振り込む
- 会社負担額を月額税抜7,500円以下とする
ここまで厳密に管理していても、国税庁は、会社が従業員に支給しているのは食事ではなく金銭であるとして、会社が補助した金額の全額を給与課税の対象としています。
参考:国税庁「使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合」
経済的な実態だけを見れば、
- 従業員が先に800円を支払い、会社が後から400円を精算する(給与となるケース)
- 会社が800円の食事を購入し、従業員から400円を徴収する(食事補助として福利厚生費となるケース)
という2つの方法に、それほど大きな違いはありません。
勤務日の本人の食事であることを領収書で確認し、本人が半分以上を負担し、月額上限も守っているのであれば、個人的には同じ取扱いでもよいのではないかと思います。
しかし、現行の国税庁の取扱いでは、両者は区別されています。
この点について、制度の理屈はある程度理解できますが、私は正直なところ、かなり形式的な取扱いだと感じます。
特に小規模事業者では、事業主本人が従業員に毎日代わりに買いに行って食事を手渡し、その後で本人負担分を徴収するような運用は現実的ではありません。
食事内容や勤務日を領収書で確認できるにもかかわらず、決済の順序や方法によって、給与課税になるかどうかが変わることには違和感があります。
小規模事業者にとっては、少しでも事務負担を減らすことが大切です。
従業員の働きやすさや定着のために導入したいと思える制度であるなら、もう少し実質を重視した、利用しやすい制度にしてもよいのではないかと思います。
それでも、国税庁の質疑応答事例で明確に示されている以上、実務ではこの形式的な違いも無視できません。
後ほどご説明しますが、弊所では電子カード(無記名PASMO)と小口現金を併用した運用としていますが、こちらの趣旨・形式面に配慮した設計で運用しています。
ポイント⑥ 食事補助規程を作成する
税法上、食事補助規程の作成そのものが非課税要件として明記されているわけではありません。
しかし、実務上は、食事補助規程を作成してから制度を運用することを強くおすすめします。
例えば、次のような事項を明確にしておいた方がよいでしょう。
- 制度の目的
- 対象となる役員・従業員
- 対象となる勤務日
- 対象となる食事や飲食物
- 1日当たりの事業者負担上限
- 1か月当たりの事業者負担上限
- 本人が食事価額の半分以上を負担すること
- 領収書の取得・保存方法
- 本人負担額の計算・徴収方法
規程を作る目的は、税務調査への備えだけではありません。
事業者側と役員・従業員側で制度の認識をそろえ、公平で持続可能な制度にするためにも必要です。
特に、勤務日数や勤務形態によって利用額が異なる場合には、その違いが合理的な基準によるものであることを規程上も明らかにしておくとよいでしょう。
ポイント⑦ 事業者の規模に合った提供方法を選ぶ
食事を現物で提供する方法には、いくつかの選択肢があります。
例えば、
- 事業者が弁当などを購入して提供する
- 事業者が飲食店と契約し、飲食店へ直接代金を支払う
- 社員食堂を設置する
- 一定の条件を満たす食券・電子食券を支給する
- 外部の福利厚生サービスを使用する
- 会社び法人カードを付与しカードで食事を購入する
といった方法です。
事業者の規模により使い勝手が全く異なりますので、それぞれの実態に合わせて継続的に運用しやすいものを導入することが大切です。
電子食券などが認められる理由
電子食券を利用する場合、実際の店舗では従業員本人がカードやスマートフォンを使って決済します。
それでも、一定の条件を満たす電子食券については、食事そのものを支給した場合と同じように取り扱うことができます。
国税庁のFAQでは、電子的なものを含む食券について、主に次のような条件で質問がなされています。
- 飲食店や飲食料品店でのみで利用
- 勤務日の本人の食事に限って利用できる
- 酒類や飲食料品以外の商品には利用できない
- 本人の親族など、他人の食事には利用できない
- 他人への譲渡を禁止する
- 1回当たりの利用上限を設ける
- 現金で釣銭を受け取れない
- 利用可能期間を設定する
そしてこうした条件を満たす場合には、食券の支給を食事そのものの支給と同視できると返答されています。
参考:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」
例えば、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」のように、従業員が通常どおり食事を選び、会計時にiDを利用する食事補助サービスもあります。
参考:エデンレッドジャパン「2026年度版おすすめの食事補助サービス25選」
従業員本人がレジで操作している点では、先ほどの現金支給や従業員が購入してからの事後清算と変わらないのでは?と思われるかもしれません。
しかし重要なのは、誰が物理的にレジで操作したかではなく、事業者が従業員に提供しているものが、
- 自由に使える現金なのか
- 食事そのものや食事に用途を限定された権利なのか
という違いです。
当事務所で導入した食事補助制度
ここからは、一般的な税務上のルールではなく、当事務所が実際に導入している制度について説明します。
当事務所の制度は、勤務日1日につき税込375円、1か月につき税込7,500円を上限として、従業員の昼食代の一部を事務所が負担するというものです。
① 月額7,500円への引上げをきっかけに導入
当事務所では、もともと従業員が働きやすい環境を整え、事務所としてできるだけ手厚くバックアップしたいと考えていました。
ただ、改正前の非課税限度額は月額3,500円でした。
仮に月20日勤務する従業員について、勤務日ごとに同じ金額を補助すると、1日当たりの補助額は175円です。
175円でも意味はありますが、昨今の物価高を考えると、福利厚生として従業員が実感できる金額かというと、少し難しいところがあります。
これが月額7,500円になれば、月20日勤務として1日当たり375円を補助できます。
例えば、700円程度の昼食について事務所が350円から375円を負担すれば、従業員本人の負担も1食350円程度に抑えられます。
この水準であれば、自宅で弁当を作るための材料費や手間と比較しても、かなり実効性の高い制度になります。
朝に弁当を用意する時間を減らし、事務所に来れば比較的少ない負担で昼食を取ることができる。
昼休みにきちんと食事をして心身ともにリフレッシュし、午後の仕事に向かってもらう。
小さな事務所でも導入でき、従業員にとって実際のメリットが大きい制度だと思ったことが、導入の一番の理由です。
② 勤務日1日につき税込375円、月額税込7,500円まで
当事務所では、勤務日1日につき税込375円、1か月につき税込7,500円を事務所負担額の上限としています。
1日375円という金額は、税法で定められた上限ではありません。
当事務所では、従業員が最大で月20日程度勤務することを想定し、税込7,500円を20日で割った金額を1日の上限としました。
勤務日ごとの上限を設けた理由の一つは、従業員の勤務日数が異なる場合にも、できるだけ公平な制度にするためです。
仮に「誰でも月額7,500円まで」とだけ定めると、月20日勤務する人も月3日勤務する人も、同じ7,500円まで利用できることになります。
月3日勤務する人が、3日間で7,500円分の高額なランチを利用することも、制度上は可能になってしまいます。
当事務所が支援したいのは、特別に高額な食事ではなく、勤務日の通常の昼食です。
毎日の食事を無理のない範囲で支援し、その制度を長く続けるため、勤務日1日につき375円という共通の基準を設けています。
③ 税法上は税抜7,500円でも、あえて税込7,500円に
制度上の限度額は税抜7,500円です。
そのため、税込金額で考えれば、実際には7,500円を多少超えても非課税限度額内に収まる場合があります。
しかし、持ち帰りの弁当や食品には軽減税率の8%、飲食店内での食事には標準税率の10%が適用されます。
非課税枠を限度額近くまで利用しようとすると、8%と10%を分けて税抜金額を計算しなければなりません。
小規模な事務所で、毎月そこまで細かく計算し、限度額ぎりぎりまで補助するのは、正直なところ面倒です。
当事務所では、補助額を多少少なくしてでも、計算と管理を簡単にすることを優先しました。
そこで、制度上は税抜7,500円まで補助できるところを、あえて税込7,500円までとしています。
数百円多く補助するために管理が複雑になり、制度そのものが続かなくなるのであれば、本末転倒です。
制度は、作るだけではなく、無理なく継続できることが重要だと考えています。
④ 一食ごとに本人が食事代の半分以上を負担
当事務所では、原則として一食ごとに、従業員が食事代の半分以上を負担する運用にしています。
例えば、800円の昼食であれば、
- 従業員負担:425円
- 事務所負担:375円
となります。
一方、600円の昼食について事務所が375円を負担すると、従業員負担は225円となり、食事価額の半分未満になってしまいます。
その場合は、
- 従業員負担:300円
- 事務所負担:300円
とします。
したがって、当事務所の1日当たりの負担額は、実質的には、税込375円と食事代の半額のいずれか少ない金額です。
一食ごとに半分以上の本人負担を求めることは、当事務所独自の安全で分かりやすい運用ルールです。
日によって本人負担割合を変え、月末に合計して50%以上になるよう調整する方法よりも、従業員にとっても事務所にとっても理解しやすいと考えています。
⑤ PASMOか小口現金で食事代全額を支払う
当事務所では、従業員が自分のお金で食事を購入し、後から事務所が375円だけを渡す方法は取っていません。これだと先ほどの現金での支給となってしまうからです。
事務所が保有する無記名PASMO(昼食補助専用)か小口現金から、食事代全額を支払う形にしています。
PASMOがメインですが近隣のお店で現金のみの取り扱いのお店もあるためこのようにしています。
なお、当事務所ではPASMOそのものを食事専用の電子食券として従業員に支給しているわけではありません。事務所が所有・管理する決済手段として、食事の購入時に限って従業員に使用させています。
具体的な流れは次のとおりです。
■PASMOの場合
- 事務所保有のPASMOを従業員が持ち出す
- 従業員が自分の昼食を購入する
- 領収書とPASMOを事務所に返還する
- 月末にPASMOからデータをCSVでダウンロードしリストを作成する
- リストは本人負担額が1日毎に半分以上、事務所負担額を1日税込375円以内、月額税込7,500円以内で管理する
- 本人分をまとめて事務所の小口現金へ入金する
- PASMO残高に小口現金から定期的にチャージし残高不足を解消する
■小口現金の場合
- 従業員を小口現金の管理担当者とする
- 従業員が事務所の小口現金から食事代を持ち出す
- 従業員が事務所の購入担当者として、自分の昼食を購入する
- 領収書と釣銭を事務所の小口現金へ戻す
- 食事ごと小口現金出納帳を記録する
- 本人負担額を月末にまとめて事務所へ入金する
- 事務所負担額を1日税込375円以内、月額税込7,500円以内で管理する
従業員が店頭で食事を選び、レジで支払いますが、従業員個人のお金を使っているわけではありません。
従業員が事務所の小口現金を管理し、事務所の購入担当者として食事を購入するという整理です。
この場合、
事務所が従業員に375円を現金で支給した
のではなく、
事務所が食事代全額を支払って食事を購入し、その食事を従業員に提供したうえで、従業員から食事代の半分以上を徴収した
という取引になります。
所長自身が、毎日従業員の食べたいものを聞き、代わりに買いに行く必要はありません。
誰が食事を選び、誰が物理的にレジで支払ったかよりも、誰の計算で食事を購入し、事業者が従業員に何を提供したのかが重要だと考えます。
小口現金方式には明確な公表事例がない
もっとも、国税庁が、
従業員を小口現金の管理担当者として、従業員自身の食事を購入させ、後から本人負担分を徴収する方法であれば非課税になる
と、そのまま明示した公表事例は、私が確認した限りでは見当たりません。
国税庁は、弁当などを購入して支給する場合の食事価額を「業者に支払う購入金額」としていますが、誰が店舗へ出向き、どのように小口現金を管理すべきかまでは示していません。
当事務所では、制度の趣旨と国税庁の公表内容を踏まえ、
- 食事補助規程を作成する
- 食事代全額を事務所のPASMOか小口現金から支出する
- 領収書と釣銭を事務所へ戻す
- 本人負担額を実際に後ほど徴収する
- 食事代全額と本人負担額の記録を残す
- 事務所負担額の上限を管理する
という形を取っています。
制度の趣旨に照らせば、当事務所では食事の現物支給として整理できると考え、この方法を採用していますが国税庁が同一の方法を個別に認めた公表事例があるわけではありません。
したがって、同じ方法を導入する場合には、一定の税務上のリスクがあることも理解したうえで、単なる食事代の事後精算と区別できる証拠を残す必要があります。
より確実性を重視する場合には、事業者が契約した飲食店へ直接食事代を支払う方法や、一定の条件を満たす食券・電子食券を利用する方法、福利厚生の提供業者を利用することなどが考えられます。
⑥ 勤務日の昼食として購入する飲食物を対象に
当事務所では、勤務日の昼食として購入する飲食物を、食事補助の対象としています。
例えば、
- 弁当
- おにぎり
- パン
- 麺類
- 店内でのランチ
- テイクアウト
- 昼食と一緒に購入する飲物
などです。
一方で、
- 酒類
- 日用品
- 本人以外の家族などのために購入するもの
- 勤務日以外の食事
- 昼食とは認めにくい高額な飲食
などは対象外としています。
どこまでを対象にするかについては、事業者ごとに合理的な基準を定め、食事補助規程に記載しておくことが重要です。
⑦ 実際に導入すると、従業員の反応は非常によかった
当事務所の従業員は、この制度を勤務の際に実際に利用しており、とても喜んでくれています。
特に大きいのが、勤務日の朝に自分のためだけの弁当を作らなくてもよくなったことです。
一人分の弁当は、材料の使い方によっては割高になることもあります。
節約のために弁当を作っているのに、材料費も時間も意外とかかるということは珍しくありません。
1食300円から400円程度の本人負担で昼食を取れるのであれば、材料を買って自分で作る場合と大きく変わらないこともあります。
それでいて、
- 朝の準備時間を減らせる
- その日に食べたいものを選べる
- 昼休みにきちんと食事を取れる
- 午後の仕事に向けてリフレッシュできる
というメリットがあります。
当事務所は、従業員に事務所へ来てもらい、仕事をしてもらう形を取っています。
私自身、食べることやお菓子が好きだということもありますが、食事補助とは別に事務所にお菓子も用意し、「今日も事務所に来てよかった」と思ってもらえる環境にしたいと考えています。
人数が増えたら専門サービスを利用する
当事務所では、まだ従業員数が少ないため、上記のPASMOと小口現金による管理を選びました。
その理由は、
- 導入手数料などがかからない
- 利用できる店舗を限定しなくてよい
- 従業員の希望に柔軟に対応できる
- 現在の人数であれば領収書と小口現金を管理できる
という点です。
一方、従業員が10人程度になれば、各従業員の領収書、本人負担額、勤務日数、月額上限を小口現金で管理するのは、かなり大変になると思います。
人数が増えた場合には、電子食券などの食事補助専門サービスを利用した方が、事業者にとっても従業員にとっても便利でしょう。
小口現金方式は、従業員数が少なく、現金と証憑をきちんと管理できる事業者に向いています。
反対に、小口現金の管理がずさんな事業者には向きません。
給与ではなく、食事補助として還元する意味
従業員に還元するのであれば、単純に給与を上げる方法もあります。
もちろん、給与を上げることは大切です。
ただ、給与に含めてしまうと、その金額が何のために支給されているのか分かりにくくなります。
給与として上乗せすれば、お金に色は付きません。
食事補助という独立した制度にすれば、
毎日の食事を少しでも支援したい
事務所に来たときに気持ちよく働いてほしい
という事業者側の意図が、従業員にも伝わりやすくなります。
また、給与は一度引き上げると、経営状況が変わっても簡単には引き下げられません。この点は多くの経営者が二の足を踏むところかもしれません。
最低賃金や物価が上昇する中で、基本給の引上げに加えて、食事代相当額まで恒常的に給与へ上乗せすることが難しい小規模事業者もあると思います。
食事補助であれば、制度として内容や上限を明確にしたうえで、給与とは別の方向から従業員を支えることができます。
給与だけでなく、複数の方向から従業員の生活や働きやすさを支援した方が、従業員の満足感も高くなるのではないでしょうか。
また、そもそも従業員に何かを還元したいという意思がなければ、制度を作っても長くは続かないでしょう。
従業員に還元したい、働きやすい環境を作りたい、給与以外の方法も活用したいと考えている小規模事業者には、食事補助は非常におすすめできる制度です。
まとめ――小規模事業者でも使える制度は上手に使いたい
食事補助の非課税限度額が、月額3,500円から月額7,500円に引き上げられたことにより、小規模事業者にとっても、かなり実効性のある福利厚生制度になりました。
当事務所でも実際に導入し、従業員には非常に喜んでもらっています。
一方で、制度上の形式的な取扱いには、正直なところ違和感があります。
しかし、現行の国税庁の取扱いでは、現金による食事代補助と、食事の現物支給は明確に区別されています。
その取扱いを無視しても仕方がありません。
であれば、現在のルールにできるだけ沿いながら、事業者と従業員双方の手間を減らし、持続可能な方法を考えることが現実的です。
制度を導入する際は、特に次の点に注意しましょう。
- 本人が食事価額の半分以上を負担する
- 事業者負担額を月額税抜7,500円以下にする
- 要件を満たさないと事業者負担額全額が給与課税される
- 従業員が公平に利用できる合理的な基準を設ける
- 個人事業主本人の通常の昼食代には利用しない
- 現金による食事代補助と現物支給を区別する
- 食事補助規程を作り、領収書や本人負担額の記録を残す
従業員に何かを還元したい、給与とは別の形でも働きやすさを高めたいと考えている小規模事業者には、食事補助制度をおすすめします。
使える制度は上手に使い、従業員の生活が少し楽になり、仕事への満足度や定着率が上がり、結果として事業者にも還元される。
そのような、みんなが少しずつ幸せになるサイクルを作ることが、福利厚生の本来の目的ではないでしょうか。
※本記事は、執筆日時点における一般的な所得税上の取扱いと、当事務所の運用事例を紹介するものです。特に小口現金による運用方法について、国税庁が同一の事例を公表しているわけではありません。具体的な制度設計や税務上の取扱いについては、個別の状況に応じてご自身の担当税理士等へご相談ください。

