個人事業主は税金をいくら残しておけばいい?売上が増えたときの資金管理

「今年は去年より売上が増えた!」

これはもちろん嬉しいことです。

ただ、個人事業主の方にぜひ気を付けていただきたいのが、口座にあるお金を全部使ってしまわないことです。

会社員の場合、所得税や住民税、社会保険料などの多くは給与から天引きされています。

一方、個人事業主の場合は、自分で確定申告をして所得税を納め、その後も住民税や個人事業税、国民健康保険料などの支払いがやってきます。

つまり、

「口座に残っているお金=自由に使っていいお金」

ではありません。

また、まとまって納付の必要があるため、痛税感もサラリーマンよりも高いことが一般的でしょう。

では、税金や社会保険料のために、いくらくらい残しておけばよいのでしょうか。

今回は具体的な金額を使いながら、個人事業主の方におすすめしたい資金管理の方法をご紹介します。


個人事業主が支払う税金・社会保険料

まず、個人事業主が支払う主な税金・社会保険料を確認してみましょう。

所得税・復興特別所得税

1年間の所得に対してかかる税金です。

所得税は所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税」になっています。

毎年確定申告を行い、原則として3月15日までに納付します。

住民税

前年の所得などをもとに計算されます。

個人事業主の場合は、一般的に6月頃に納税通知書が届き、年4回に分けて支払います。

個人事業税

一定の事業を行っている個人事業主にかかる都道府県税です。

業種によって税率は異なりますが、多くの業種では3%~5%となっています。

また、年間290万円の事業主控除があります。

消費税

消費税の課税事業者になっている場合には、所得税などとは別に消費税の納税が必要です。

消費税については後ほど改めて触れますが、今回ご紹介する「利益の30~40%」という目安には含めていません。

国民健康保険

国民健康保険料(税)は、前年の所得や家族構成、住んでいる自治体などによって変わります。

所得が増えると国民健康保険の負担も大きくなっていきます。

国民年金

国民年金は、国民健康保険とは異なり、所得によって保険料が変わりません。

2026年度の国民年金保険料は月額17,920円です。


実際、利益の何%くらい残しておけばいい?

それでは具体的に計算してみましょう。

今回は分かりやすくするため、次のような個人事業主を想定します。

  • 40歳
  • 既婚
  • 配偶者の所得なし
  • 夫婦とも国民健康保険・国民年金に加入
  • 子どもなし
  • 千葉県市川市在住
  • 青色申告特別控除65万円を利用
  • 個人事業税の税率は5%
  • 基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除以外のその他の所得控除は考慮しない
  • 消費税は考慮しない

なお、ここでいう「利益(所得)」とは、売上から事業に必要な経費を差し引いた後、青色申告特別控除65万円を差し引く前の金額とします。

なお、「売上(収入)」「利益(所得)」の違いがまだ少し分かりにくいという方は、こちらの記事でも解説しています。
→ 収入と所得の違いをわかりやすく解説

また、国民健康保険は前年の所得をもとに計算されるため、前年も同程度の利益だったものとして試算しています。

年間利益所得税等住民税個人事業税国民健康保険国民年金(夫婦)合計利益に対する割合
300万円約1万円約9万円約0.5万円約31万円約43万円約85万円約28%
500万円約10万円約26万円約10.5万円約55万円約43万円約145万円約29%
800万円約59万円約53万円約25.5万円約90万円約43万円約270万円約34%
1,000万円約99万円約73万円約35.5万円約105万円約43万円約355万円約36%

※2026年8月現在の税制、市川市の国民健康保険税率などをもとにした概算です。実際の税額や社会保険料は、家族構成、所得控除、前年所得、自治体、業種などによって異なります。

例えば利益500万円の場合でも、税金と社会保険料を合わせると年間約145万円になります。

利益1,000万円の場合には、今回のモデルケースでは年間約355万円です。

つまり、

「500万円利益が出たから500万円使える」

というわけではありません。

手取りという意味であれば、利益から税金等の合計額を引いた額になりますので以下が目安となります。

年間利益手取り相当額
300万円約221万円
500万円約362万円
800万円約533万円
1,000万円約649万円

目安として利益の30~40%を残しておく

先ほどの試算を踏まえて、実務上は実際の負担額よりも少し余裕を持って、次のくらいを目安にしておくと安心です。

年間利益の目安税金・社会保険料として残しておく目安
~500万円利益の30%程度
500万円~800万円利益の35%程度
800万円~1,000万円以上利益の40%程度

もちろん、実際にはここまで必要ない場合もあります。

ただ、納税のタイミングになってお金が足りなくなるよりも、少し多めに確保しておいて、納税後に余ったお金を使う方が安心です。


年間利益が分からなくても大丈夫です

「利益の30~40%と言われても、今年の利益なんて年末にならないと分からない」

と思われる方もいるかもしれません。

その場合、まずは1か月の利益を12倍するだけでも十分です。

例えば、

  • 1か月の売上:100万円
  • 1か月の経費:50万円
  • 1か月の利益:50万円

だったとします。

この50万円を12倍すると、

50万円 × 12か月 = 年間利益600万円

となります。

もちろん、実際に毎月50万円の利益が出るとは限りません。

それでも、「年間利益が分からないから何もしない」のと、「このままいけば年間600万円くらいかな」と予測しておくのとでは大きく違います。

年間利益600万円くらいと予想するのであれば、先ほどの目安では35%程度を確保しておきます。

つまり、

50万円 × 35% = 17万5,000円

です。

今月50万円の利益が出たら、そのうち17万5,000円程度を税金・社会保険料用のお金として確保しておくイメージです。

また、数か月経過しているのであれば、

これまでの利益 ÷ 経過月数 × 12か月

で計算すると、より実態に近い年間利益を予想できます。

例えば、6月までの利益が300万円であれば、

300万円 ÷ 6か月 × 12か月 = 年間利益600万円

と予想できます。

厳密な予測をする必要はありません。

月に一度でも「今年の利益はこのくらいになりそうだな」と確認するだけで、納税資金の準備はかなりしやすくなります。

もっとざっくり計算するなら 売上の20%を目安に

「理屈はわかったんですが、もっと簡単にわかる方法はないの?」

「経費も利益も月で大きくぶれるのでなかなか・・」

そういう方は、毎月の売上の2割程度を目安に残されるといいと思います。

これは本当にざっくりで、売上だと業種や個人によってブレが大きいのですが、あくまで参考に使うなら目安にはなると思います。


税金用の口座を作って毎月移してしまう

私がおすすめしたいのは、税金や社会保険料を支払うための口座を一つ用意する方法です。

先ほどの例なら、今月50万円の利益が出た時点で、その35%にあたる17万5,000円を税金用の口座に移してしまいます。

残りの32万5,000円が、税金等を考慮した後のお金というイメージです。

頭の中で、

「このうち17万5,000円は税金用だから使わないようにしよう」

と考えていても、同じ口座に入っていると、ついつい使ってしまうことがあります。

それなら最初から口座を分けてしまった方が分かりやすいです。

そして翌月になったら、また同様に税金等のためのお金を税金用口座へ移します。

毎月これを繰り返していけば、確定申告の時期になって突然、

「税金を払うお金がない!」

という状況になる可能性をかなり減らすことができます。


税金の支払いは3月だけではありません

もう一つ注意していただきたいのが、税金や社会保険料を支払う時期です。

「確定申告が3月だから、税金も3月に用意すればいい」

と思っている方もいるかもしれません。

しかし、実際には年間を通じて様々な支払いがあります。

市川市在住の個人事業主を例にすると、大まかなスケジュールは次のようになります。

時期主な支払い
3月所得税・消費税
6月住民税 第1期
7月国民健康保険
8月住民税 第2期・個人事業税 第1期・国民健康保険
9月国民健康保険
10月住民税 第3期・国民健康保険
11月個人事業税 第2期・国民健康保険
12月国民健康保険
翌年1月住民税 第4期・国民健康保険
翌年2月国民健康保険
毎月国民年金

※予定納税は対象となる方のみです。上記の表には反映させていません。
※住民税など期を分けずに一括で納税可能なものもあります。

この表を見ると分かるように、3月の確定申告が終わった後も、6月から様々な支払いがやってきます。

特に利益が大きくなってくると、所得税の予定納税も発生します。

そのため、納税時期になってからお金を用意するのではなく、利益が出た時点で少しずつ取り分けておくことが大切です。


消費税の課税事業者はさらに注意

ここまでの「利益の30~40%」という目安には、消費税を含めていません。

消費税の課税事業者になっている方は特に注意が必要です。

所得税や住民税は、基本的には利益(所得)が大きくなるほど負担も大きくなります。

一方、消費税は単純に利益の何%という計算ではありません。

売上にかかる消費税から、仕入れや経費などにかかる消費税を差し引くなどして計算します。

そのため、

「利益の40%を税金用に取ってあるから大丈夫」

とは限りません。

消費税の課税事業者については、所得税や住民税などのために確保するお金とは別に、消費税の納税資金も意識して残しておくことをおすすめします。


節税する前に、まず納税できる状態を作る

個人事業主の方から、

「何か節税できませんか?」

というご相談をいただくことがあります。

もちろん、ふるさと納税や小規模企業共済など個人事業主が利用できる有効な制度もあります。

ただし、それにもキャッシュアウトは伴いますし、何より節税のために必要のないものまで購入したり、手元のお金を減らしすぎたりするのはおすすめできません。

税金を減らすことも大切ですが、事業を続けるための現金をきちんと残しておくことは、それ以上に大切です。

まずは税金や社会保険料を問題なく支払える状態・仕組を作る。

そのうえで余裕資金があるのであれば、節税や将来への投資を考えていく。

この順番で考えていただくのがよいと思います。


まとめ|「残っているお金=使っていいお金」ではありません

個人事業主は、会社員と違って税金や社会保険料の多くを自分で管理して支払わなければなりません。

そのため、事業が順調になって口座残高が増えてきても、すべて自由に使ってしまうのは危険です。

ざっくりした目安としては、

年間利益500万円くらいまで → 30%程度

年間利益500万円~800万円 → 35%程度

年間利益800万円以上 → 40%程度

を、税金・社会保険料用のお金として確保しておくと安心です。

そして、年末になってから年間利益を計算してお金を用意する必要はありません。

毎月、

① 月次の利益を確認する

② その利益から年間利益をざっくり予想する

③ 利益の30~40%を税金用の口座へ移す

これだけでも資金管理はかなりしやすくなります。

個人事業主の場合、売上や利益が増えてくるにつれて、所得税・住民税だけでなく、国民健康保険、個人事業税、予定納税、そして消費税など、考えなければならないことも増えていきます。

「売上は増えてきたけれど、税金としていくら残しておけばいいのか分からない」

「自分で経理や税金を管理するのが大変になってきた」

という場合は、税理士への依頼を検討してみてもよいタイミングかもしれません。

参考記事:個人事業主はいつ税理士に相談すべき?